平安の雅、源氏物語・梅枝の帖の薫物合を連想させる香道具

Incense Box in Two Compartments / 貝合蒔絵香箱
The Metropolitan Museum of Art
Period: Meiji period (1868–1912) Date: late 19th century
Dimensions: H. 1 7/8 in. (4.8 cm); W. 2 1/2 in. (6.4 cm); D. 4 3/4 in. (12.1 cm)

平安時代の貴族達の遊びの中でも、取り分け優雅なものの一つに、「薫物合(たきものあわせ)」なる遊びがあります。

薫物(たきもの)とは、様々な香料を細かく砕いて調香し、丸薬状に練り固めたお香のこと。薫物合とは、薫物の香りを比べて競い合う遊びのことです。

そしてこの薫物合わせを描写した作品として最も有名なものが、『源氏物語』の梅枝の帖に出てくる、六条院の薫物合です。

向かって左の部分を拡大してみましょう

梅枝の帖を思わせる意匠を凝らした蒔絵

「二月の十日、雨少し降りて、御前近き紅梅盛りに、色も香も似るものなきほどに…」

『源氏物語』梅枝の帖より

旧暦二月(太陽暦の現代では概ね3月頃)の十日ごろ、雨が少し降って、御前の近くの紅梅の花は盛りを迎えて、その色も香りも比類なき素晴らしさを誇るころ、薫物合が開かれます。

そして、薫物合が素晴らしい香りが人々の心にも華やぎを齎した後には、饗宴が開かれ、琵琶や琴などを用いた管弦の遊びが始まります。

小さくて見え難いかもしれませんが、この香合の左の部分を拡大してみると、御簾の掛けられた建物の前に、庭に植わった梅の花が描かれています。そして御簾の下には、お琴の姿がチラリと見えます。

この香合は、源氏物語の梅枝をイメージしたとはっきり書いてあるわけではありませんが、そのように意図して作ったと考えて間違い無いでしょう。

貝殻の形で、貝合(貝覆)をイメージさせる

二枚貝の形をした香合は二段重ねになっている

薫物合は、「物合(ものあわせ)」と呼ばれる、対象を比べ競う遊びの一種であり、歌合、根合わせ等々、さまざまな遊びがあります。

トランプの神経衰弱ゲームに似ている、伏せた貝殻の内側に描かれた絵柄を揃え合わせる遊びのことを意味して、「貝合」と言われています。

※厳密には、古くはそれは「貝覆(かいおおい)」と呼ばれていた別の遊びでした。本来の「貝合」は、貝殻の美しさ(と、それに加えた和歌など)を競い比べるものだったそうですが、時代が降るにつれて混同され、従来は貝覆と呼ばれていた遊びが、貝合わせと呼ばれるようになりました。

この煌びやかで美しい香合は、薫物合、貝合(貝覆)と、平安時代の貴族の遊びを巧みにデザインに取り入れ、典雅な王朝文化の雰囲気を体現しているかのようです。

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